白い海を辿って。
「さっきから言ってることおかしいぞ。椎野さんが荷物を持って帰る理由とはどう関係あるんだよ。」
『女の影があるのは良くない。』
「女の影って。」
『私たちは恋人でもなんでもないしこの先もそんなことには絶対ならないけど、影があるのは良くないでしょ。』
絶対の部分を強調する椎野さんからクリスマスのことはもう抜け落ちているみたいだ。
影も何も、そんなのあってもなくて関係のないことなのに。
「自分がいかに現実的じゃないこと言ってるか分かってる?」
『分かってます。でもやるんです!』
「やらない。」
正座をやめて投げ出した足を椎野さんが殴るように叩く。
「いって。」
『そんな弱気でいるから後輩に持ってかれるんじゃないですか!好きなら絶対手放しちゃダメです!』
あの日手を放したことを、俺はずっと、きっと今でも後悔している。
でももうどうしようもない。
好きな気持ちと同じくらい、いやそれ以上に、俺には離婚したという負い目があるのだから。