白い海を辿って。
『あぁ~もう!見てらんないんですよ!うじうじするならするで、ちゃんと気持ちぶつけて振られてからにしてよ!』
「うじうじって…」
『してるからね?俺には俺にはって、自分を蔑んで諦めたふりしてるだけ。』
真正面からぶつかってくる椎野さんの言葉がすとんと胸に落ちる。
諦めたふり、なのかもしれない。
『奪う気がないならせめて自分の気持ちだけでも伝えなよ。』
「そう、だな。」
『そうだよ!』
思えば自分は、これまでに1度も滝本さんに好きだと伝えていない。
好きになれて良かったと、全てが終わった後に言っただけだ。
『とりあえず、その後輩を見に行く。』
「は?」
『どんな男か気になるじゃない。』
その気になり始めていた気持ちが一瞬で止まる。
悪巧みを思いついたような表情の椎野さんに不安しかない。
『陰からこっそり見るだけだから。明日仕事が終わってから連れてって。』
「やっかいなことには巻き込まないでくれよ。」
『大丈夫大丈夫!』
完全に楽しんでいる椎野さんとの温度差を感じながらも、少しずつ俺の気持ちが動いてきているのを感じていた。