白い海を辿って。

助手席に座ると、先生との距離の近さにまたドキドキする。

私の車の方が狭いからさっきはもっと近くにいたはずだけど、ハンドルを握る先生の手がすぐ傍にあることが私を緊張させた。


そして、その手を見てふとひとつの思いが湧きあがる。


奥さん、怒らないかな。


ハンドルを握る先生の手にやっぱり指輪はないけれど、以前はそこに光るものがあったことを私は確かに覚えている。

先生が私を女性とカウントしてくれているかは分からないけれど、助手席に知らない女性が乗ったことを知ったら奥さんは怒らないだろうか。

というか先生は、結構簡単に奥さん以外を助手席に乗せるんだな。



『どうかした?』


走り出しても何も話さない私に、先生が不思議そうに聞く。



『もしかして、俺の運転怖い?』

「いえ、そんな。そんなんじゃなくて。」


考えていたことが考えていたことだけに、少し深刻な声になってしまった。

冗談で言った先生の言葉に冗談で返すことができなくて、先生の横顔が微かに曇る。



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