白い海を辿って。
左手の指輪。
【Asumi side】
私が人生を捨てたのは、19歳のときだった。
大学を辞めたあの日から、私の未来は閉ざされた気がした。
『可愛いスカートだね。』
職場に着くと店長の佐原 倫子(サワラ リンコ)さんは挨拶よりも先にそう言った。
「ありがとうございます。安物ですけど。」
『へぇ、最近は安くて可愛い物が売ってるもんだね。』
若者に人気のファストファッションブランドで見つけたスカートは、確かに低価格にしては良く出来ていた。
インターネットで洋服や雑貨を販売しているこの店は、倫子さんがたった1人で立ち上げた店だ。
倫子さんがセレクトする個性的なデザインの洋服や雑貨は『他では買えない』と沢山のファンがいて、リピーターさんも多い。
35歳で独身、他人にあまり興味を示さない倫子さんのサバサバした人柄が私は好きだし、何より尊敬している。
絶望の淵にいたと言うよりもはや落ちていた私を拾ってくれたのも倫子さんだったし、今私と社会を繋げてくれているのも間違いなく倫子さんだ。
倫子さんが、閉ざされていた未来を広げてくれた。