白い海を辿って。
離したくない。
【Haruta side】
声をかけられたとき、一瞬の間の後であ、と思った。
美術館で彼女が落としたハンカチを拾ってくれた人。
「あのときの、」
『明日実の今の彼氏ですか?』
俺の言葉を遮って聞かれた一言に、息が止まりそうになった。
まっすぐすぎる目、"今の"と言ったことに自分も過去にそうであったことをアピールする意思、微かに見え隠れする嫉妬と敵意。
彼女の元彼だとすぐに分かった。
沢山のことが一気に頭の中に駆け巡った。
何をしに来た?
どうして俺の職場を?
「明日実には会ってないだろうな。」
だけど何よりも気になったのはそれで、今彼女がどうしているのか心配だった。
『会ってないです。…もう会えないので。』
嫉妬も敵意も消え去った無表情が逆に恐ろしかった。
あの日美術館で出会ってからずっと、俺を探していたのだろう。
彼女の家は知っているのだから、その周辺で俺たちを見つけるのはこいつにしてみれば簡単なことだったはずだ。