白い海を辿って。
「理瀬さん。」
俺の声に、理瀬さんがぱっと顔をあげる。
そんな苦しそうな目は見たくなかった。
「会わないでくださいよ。」
『分かってる。』
それだけのやりとりに、俺と理瀬さんのそれぞれの想いが詰まっていた。
だけど2人とも、その本質を表には出さない。
『でも、誰かが傍にいてあげなきゃ…。』
椎野さんの言葉は鋭く刺さったけれど、何も返すことができなかった。
傍にいてあげなきゃいけないのは他の誰でもなく俺だけど、傍にいたいよりも傷つけたくないという想いが勝ってしまう。
「もうあんな想いはさせたくない。二度と誰にも触れさせたくないんです。」
2人はもう何も言わなかった。
堂々と助けてください、協力してくださいと言えば良かったのに。
そうできない俺の弱さと歪んだ独占欲が、こんなにも近くにいる人を遠ざける。
『青井先生、』
『椎野さん。今日は帰ろうか。』
ようやく口を開いた椎野さんを理瀬さんが遮った。
お金を置いて立ち上がった理瀬さんにも、慌ててその後を追った椎野さんにも、やっぱり何も言えなかった。