白い海を辿って。
近くて遠い。
【Shuto Side】
『ちょっと!待ってよ!』
逃げるように店を出た俺の腕を椎野さんが掴む。
言葉を返すよりも先に、その手をそっと放した。
頭の中でありとあらゆる感情がごちゃ混ぜになって何も考えられない。
「ごめん、今は何も話したくない。ひとりになりたい。」
『何も話さなくていい。だから一緒にいる。』
2人で俺の車に乗り、発進させずにただ黙っていた。
教習所の前で変な男を見かけた日、早見さんから聞いたのは滝本さんの元恋人だということだけだった。
だけど焦ったように警察に通報した早見さんと、あいつを見つけてくれてありがとうと言った青井くんから、滝本さんが何かしらの被害にあったことが想像できた。
それはきっと滝本さんがずっと俺に話そうとしていたことだ。
彼女はあいつからずっと…そう言って言葉を詰まらせた青井くんの表情から、嫌な想像ばかりが広がった。
ずっと受けていた何かは分からなくても、傷つけられたであろうことは簡単に分かる。