白い海を辿って。
「それにしても怖かったな、椎野さん。」
『え?そうですか?私何もしてませんよ?』
「よく言うよ。」
飛び蹴りに始まり説教に次ぐ説教ですっかり岸井は怯んでいた。
暴走しないようにと思っていたが、おかげで岸井は今度こそもう現れないだろう。
「椎野さんって何者?」
『なんですか今更。』
「いや、見事な飛び蹴りだったなと思って。」
仕事中の椎野さんからは想像もできない姿に、思わず声が漏れる。
そっと隣をうかがうと、滝本さんもうんうんと頷いていた。
『まぁ学生時代にちょっと。人並み以上に喧嘩してまして。』
「え?元ヤン?」
『そんな感じっす。』
「へぇぇ。」
最近どんどんくだけてきていた口調の背景が分かった気がした。
仕事中の椎野さんだけを知っている人には信じられないだろう。
『だから滝本さん。何かあったらいつでも私に言ってね。すぐ飛んで行くから。』
『あ…ありがとうございます。』
戸惑いながらも滝本さんが少し微笑んだことに安心した。