白い海を辿って。
椎野さんを送り届け、車内に滝本さんと2人になった。
最後まで椎野さんにお礼を言っていた滝本さんは、2人になってから黙ったままだ。
何から話せばいいのか分からないのは俺も同じで、ただ夜の中を走り続ける。
「滝本さん、ご家族に連絡は?」
『今日は元々、彼のところに泊まると言ってあるので大丈夫です。』
目の前のことに必死ですっかり聞き忘れていたことを聞くと、返ってきた"彼"という一言に鼓動が跳ねる。
青井くんのところに泊まる予定だったのに、今2人は一緒にいない。
何があったのか聞きたい気持ちを、もう少し落ち着く時間が必要だと押し留める。
「今日のことは、報告しなくて大丈夫?」
『はい。落ち着いたら、私からタイミングを見て話します。』
車内に2人という空間の中でもきっちりと引かれた線が、常に一定の距離感を保ち続ける。
いつかこんな風にドライブをした日があった。
だけどあのときとは決定的に違う、決して越えることのできない近くて遠い距離が、今ここにはある。