白い海を辿って。

さよならの後に。


【Asumi Side】


どうぞ、と開かれたドアをくぐっていいのか迷う。


1人歩く夜道で背後から感じた微かな気配に振り返ったとき、とっさに連絡したのは先生だった。

お正月に会いに行くために彼から連絡先を教えてもらい、登録し直していた。

そこにいる人を見て助けを求めたのがどうして先生だったのか、ここに来る間ずっと考えていた。


彼に突き放されたショックを、先生に頼った自分がずるくて、浅はかで。

だけどそんなことよりももっと感覚的に、衝動的に、先生に会いたかったんだと思う。



『滝本さん?』


玄関に立ち尽くす私に先生が心配そうに声をかける。

先生の家。

私が入っていいのか分からない、先生の領域。



『どうぞ。』

「いいんですか…?」

『いいも何も、俺にはもう気を遣う相手はいないから。』


そう言って先に中へ入った先生がふいに動きをとめる。

気を遣う相手が今は私にいることに気付いたみたいに。



「おじゃまします。」


だけど、もう私にもいなくなった。

後ろ手でドアを閉めると、先生が振り返ってほっとしたように微笑んだ。



< 326 / 372 >

この作品をシェア

pagetop