白い海を辿って。
さよならの後に。
【Asumi Side】
どうぞ、と開かれたドアをくぐっていいのか迷う。
1人歩く夜道で背後から感じた微かな気配に振り返ったとき、とっさに連絡したのは先生だった。
お正月に会いに行くために彼から連絡先を教えてもらい、登録し直していた。
そこにいる人を見て助けを求めたのがどうして先生だったのか、ここに来る間ずっと考えていた。
彼に突き放されたショックを、先生に頼った自分がずるくて、浅はかで。
だけどそんなことよりももっと感覚的に、衝動的に、先生に会いたかったんだと思う。
『滝本さん?』
玄関に立ち尽くす私に先生が心配そうに声をかける。
先生の家。
私が入っていいのか分からない、先生の領域。
『どうぞ。』
「いいんですか…?」
『いいも何も、俺にはもう気を遣う相手はいないから。』
そう言って先に中へ入った先生がふいに動きをとめる。
気を遣う相手が今は私にいることに気付いたみたいに。
「おじゃまします。」
だけど、もう私にもいなくなった。
後ろ手でドアを閉めると、先生が振り返ってほっとしたように微笑んだ。