白い海を辿って。

『ごめん…俺もう疲れたわ。明日実といるとずっと気遣ってるんだよ。』


すっと放された手が、宙ぶらりんになって行き場をなくす。



「ごめんなさい。」

『俺の方こそ…今日のことは本当に悪かったと思ってる。』

「もういいの。今まで本当にありがとう。最後まで迷惑かけっぱなしでごめんね。」


そう言うのがやっとで、彼の言葉を聞く前に走り出していた。

だけど彼はもう何も言わなかったと思う。


これまでのことが、彼を疲れさせてしまった全ての出来事が、繰り返し繰り返し頭をよぎる。

きっとこれまで付き合ってきた人も、今回浮気した人も、一緒にいるだけで常に気を遣うなんてことはなかったのだろう。

いつか倫子さんが言った『ずっと一緒にいたいと思う人は何も考えずにただ一緒にいられる人』という言葉の意味を痛い程に感じていた。


そして私はすぐに、背後の気配に気付いた。

誰かがいる。

後を追ってくる。

それが彼ではないことに気付いたとき、私の頭は一気に真っ白になった。


彼には連絡できない。

彼の家に泊まると言ってきた家族にも。


私の頭に浮かんだ人は、ひとりしかいなかった。



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