白い海を辿って。

「私、彼と…青井さんと別れたんです。」

『え?』


ぎこちなく私を抱きしめていた先生が、そっと体を離す。

言葉にして初めて、そのことを受け入れられたような気がした。



「さっき、別れてきたんです。」

『どうして…俺が青井くんに会ったときはそんな感じじゃ…。』

「私が、」


彼…青井さんが言ったことを勝手に言うべきではないと思い言葉に詰まる。

今は違う職場でも、2人は先輩後輩なのだ。

私が知らない場所で会うことだってあるだろうし、2人の信頼関係を壊したくなかった。



「私が、迷惑ばかりかけたから。」

『そんなこと、俺はないと思うけど。』


あまり話したくはない私の思いを察してか、先生はそれ以上何も聞いてこなかった。

その気遣いが苦しくて、胸が痛い。

一緒にいてずっと気を遣ってるって、きっとこういうことだ。



「私帰りま」

『あ~お腹空いたなぁ。』

「へ…?」


言いかけた"帰ります"は、先生の柔らかい声が重なって聞こえなかった。



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