白い海を辿って。
◆第七章◆

約束の傷跡。


【Haruta Side】


『青井くん。』

「はい。」


仕事を終えて帰宅しようとしていた俺を早見さんが呼び止める。

何も考えずに振り向くと早見さんは思いの外深刻な顔をしていて、一瞬で緊張が高まった。



『ちょっといいかな。』

「え?」

『何か予定ある?』

「いえ…大丈夫です。」


仕事が終わればすぐに帰る俺を早見さんは毎日見ていて、だけどそれがまっすぐ家にではないことにきっと気付いているはずだ。

遠慮がちに探るような視線に居心地の悪さを覚える。



『聞いたよ、滝本さんのこと。』

「あぁ…はい。」


やっぱり知られていた。

俺が、彼女…滝本さんと別れたこと。


早見さんに話したのは理瀬さんだろう。

あの日、滝本さんと別れた日。

滝本さんなら大丈夫だと俺に連絡をくれたのは理瀬さんだった。


俺がひとりで帰った後、滝本さんを岸井がつけていた。

助けを求められた理瀬さんが駆け付けたおかげで滝本さんは無事だったけれど、俺のせいでそんな目にあわせてしまったことが申し訳なかった。



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