白い海を辿って。
『今日はご飯行くのやめようか。』
「え?」
『家で食べよう。なんか静かに食べたい気分になった。』
私も、同じことを思った。
あの日、おいでと言ってくれた理瀬さんの胸に寄りかかってから、私たちは1度も触れ合っていない。
どんなときもただ傍にいてくれる理瀬さんの優しさは、私をひたすら安心させてくれる。
「近くに美味しいお惣菜屋さんがあるんですよ。」
『お、行こう行こう。』
スーパーで食材を買って作ることもできたけれど、今日は少し疲れていた。
無理をする必要はないと思えるのも、ここだけだ。
『げ。』
「どうかしました?」
『椎野さんだ。』
お惣菜屋さんへ入ろうとすると理瀬さんがスマホを見て声をあげる。
椎野さんとは、理瀬さんの後輩であのとき私を助けてくれた人。
華麗な飛び蹴りと迫力満点の説教であの人を完璧に追い払ってくれた、恩人のような人だ。
理瀬さんととても仲が良さそうで、もしかしたら恋人なんじゃないかと思ったけど、2人の様子からしてそれはないみたいだった。