白い海を辿って。

「はい…飲まないです。」

『だよね。』


椎野さんが私の分の烏龍茶を渡してくれて、お酒ってイメージじゃないもんねと微笑む。

理瀬さんは知らない。私が心療内科に通っていることも、薬を飲んでいることも。

話していないのだから、知るはずがないんだ。


いつか私の話も聞いてほしいと、そう言ったきりになっていたことを思い出す。

あのときはそれを何かものすごく特別なことのように思っていて、話すのに勇気が必要だった。


だけど今は、そんなことと思う自分がいる。

いつまでも自分を可哀想がっているようでつまらないと。

なんでもない、それがただの私で、つまらなくてもなんでもない存在でも理瀬さんの前ではそれでいいと思える。



「飲めないんです、私。」


ふいに呟いた私を2人が同時に見る。



「薬飲んでるので。お酒と併用しちゃいけない精神科の薬。だから飲んじゃダメなんです。」


気を遣わせたくなくてなんとなく笑ってはみたものの、うまくいかなかったような気がした。



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