白い海を辿って。

『滝本ちゃんもさ、幸せにならないとダメだよ。』

「椎野さん…。」

『ひどいことされて嫌になる気持ちも分かるけど、そんなやつばっかじゃないからね。』


先程まで楽しそうに笑っていた椎野さんの声のトーンが少し低くなったと思ったら、ふいに鼻をすする音が聞こえてきた。



『椎野さん?』

『怖かったでしょ。』


自分が傷つけられているみたいに泣きながら私の髪を撫でる手が、とても優しくて温かかった。

そのぬくもりに涙腺が壊れたように涙が溢れてくる。

理瀬さんは何も言わずにただそんな2人を眺めていた。



『これからはいい人にしか出会わないから。絶対。』

「椎野さんが言うと本当にそうなるような気がします。」

『なるんだよ。』


幸せになれると思った。

青井さんと一緒にいて、幸せになれるんだと思った。

だけど実際はそんなに単純なことじゃなくて、幸せになれないのは自分に原因があるからだと思っていた。


だけど幸せになれる。

今度こそ、私は幸せになりたい。

目の前にいる、大好きな人と。



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