白い海を辿って。
小さな子供を胸の前に抱っこして、俺を驚いた表情で見つめている。
さっと周囲を見たけれど、夫らしき人は一緒ではなかった。
明日実はすぐ傍の棚でガイドブック選びに夢中になっていて、向かい合う俺たちには気付いていない。
『びっくりした。久しぶりだね。』
「あぁ。」
『この子、娘の菜奈(ナナ)。』
「こんにちは。」
視線を合わせて挨拶してみたけれど、不思議そうな目で俺を見るだけだった。
再婚しているだろうなとは思っていたけれど、母親になっていたことは初めて知った。
『旦那さんの転勤で今は仙台に住んでるんだけど、昨日から母に会いに実家に帰ってるの。』
「そうなんだ。」
『秀人は?1人?』
「いや、奥さんと。」
後ろを振り返ると、ちょうど顔を上げた明日実と目が合った。
小さく手招きすると、ガイドブックを置いて傍へ来る。
『奥さん?』
「うん。明日実さん。」
『初めまして。』
『初めまして。私、元妻の聡美です。』
え、と呟いたきり明日実が固まってしまう。
状況が飲み込めていないのは俺も同じだった。