白い海を辿って。

「はい。」

『ありがとう。』


ガイドブックに夢中になっている目の前に、そっと紅茶を差し出す。



『嬉しかったですか?』

「なにが?」


唐突な問いかけに何のことか分からず明日実を見ると、少しいたずらっぽい表情をしていた。

手の中に包まれたマグカップが、微かな湯気をたてている。



『聡美さんに会えて。』

「え?」

『ほっとした顔してるから。』

「うん、嬉しかった。」


きっとずっと、明日実も気にしてくれていたのだろう。

大切にしなきゃいけないたったひとりさえ、俺が大切にできずに傷つけてしまったことを。

幸せな日々を送りながら、どこかでずっと、元気でいてくれるはずだと祈るように思っていた。



『前に椎野さんから聞いたこと、私ずっと忘れられなくて。』

「椎野さん?」

『私と秀人さんが会わなかった間、私が幸せでいてくれればそれでいいって言ってくれてたって。』


もう随分と前のことのように思えたけれど、その気持ちは今でもはっきりと覚えていた。

目の前にいても変わらず、思っていることだから。



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