白い海を辿って。
『そっか…そんなこと全然考えてなかった。』
「それはちょっと無防備すぎませんか?」
深刻な私とは対照的に呑気な声を出す先生に思わず笑ってしまう。
本当は真っ先に思い当たらなければいけないことなのに。
『遠い方がいいのかな?』
「私は、その方がいいような気がします。」
『じゃあそうしよう。』
先生の他人事のような話し方に、そんな重要なことじゃないのかも…と思えてくる自分がいて慌てて首を振る。
ダメだよ、不倫なんて。
勘違いされるようなことも絶対にダメ。
『なんか、ごめんね。』
不意に、先生がつぶやく。
その声はもう呑気なんかじゃなかった。
『変な気を遣わせてしまって、ごめん。』
そこに対しては心底そう思っていると、電話の向こうのその気持ちが伝わってくる。
だけど私は、先生に会えるならそれでいいんだ。
少し気を遣うことくらいなんでもない。
「先生、会いたいです。」
そんなことを考えていたからか、気付けばそう声に出してしまった。