白い海を辿って。

あの人はとても真っ白な人だった。

ひねくれた私とは何もかもが違う、まっとうな大人。


きっと今日私がそこに向かったのはほんの偶然で、あの人がそこにいたのも単なる偶然でしかないのだろう。


仕事が終わってからショッピングモールへと車を走らせ、少し店内を見て回った。

ショップに入ってしまうと店員さんに話しかけられそうで、外から眺めるだけにする。


ついでにモールの中にある映画館に入り上映作や新作をチェックした。

映画が好きでよく観るけれど、ここの上映作はあまりラインナップが豊富ではなく映画を観るときはひとつ遠い映画館まで行く。



「あ。」


新作のフライヤーが多数立てられている棚の前で見覚えのある顔を見つけ、思わず声が出てしまった。



『…あ、あれ?こんにちは。』

「こんにちは。…分かりますか?」

『うん、滝本さん。』


声に出してしまったものの覚えられている自信がなく、不安気に聞くと笑顔で返してくれた。



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