白い海を辿って。

『滝本さんはお前が既婚者だって知ってるのか?』

「あ、はい。というか離婚することも知ってます。」

『えっ、もうそんなことまで話したのか?』


再会してすぐに、そのことを話したと思う。

滝本さんが傍にいる安心感と自分の安定感、それをしっかり独立した気持ちにしておきたかったから。

結婚生活がうまく行っていないことから派生する気持ちではなく、“不倫”や“浮気”でもなく、ひとつの“恋愛”だと示すために。



『自分のことは自分で決めればいいと思うぞ。奥さんとのことも、滝本さんとのことも。周りなんて後からどうとでもなるんだから。』

「ありがとうございます。俺、滝本さんのことちゃんと知ろうと思います。」


もしも滝本さんが誰にも言えずひとりで孤独の淵に立っているのだとしたら。

今は遠くても、壁だらけでも、俺はそこまで滝本さんを迎えに行きたい。

滝本さんが抱える痛みを、不安を、分かち合える存在になりたい。


そう思うほどに、俺は彼女に恋をしていた。

忘れかけていた恋を。



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