白い海を辿って。

嬉しかった。

数え切れないほどいる生徒の中で、こんな私を覚えていてくれたことが。



『久しぶりだね、元気?』

「はい、元気です。」


何の当たりさわりもない会話。

その程度の関わりしかないのだから当然と言えば当然だけど、そんな会話しかできないことがどこか寂しかった。



『その後どう?乗ってる?』

「全然うまくならないんですけど、それなりに乗ってます。」

『なんか不安な答えだなー。』


そう言って笑った先生の笑顔に懐かしさを感じて、私もふっと笑った。


“乗ってる”とは、もちろん車のことだ。

そして“先生”とは、私が通っていた自動車教習所の教官、理瀬 秀人(リセ シュウト)さんのこと。


名前をフルネームでちゃんと覚えていたことに自分でも驚いた。

沢山いる教官の中で先生に教えてもらったことは数回しかなかったし、私が通っていたのはもう3ヶ月も前のことだ。

それに、教習所を卒業してからは先生のことを思い出したこともなかった。



< 6 / 372 >

この作品をシェア

pagetop