白い海を辿って。

俺たちが観た映画は人気脚本家によるオリジナルストーリーのミステリーだった。

男女間の感情のもつれや恋愛によるトラブルが描かれていて、そこに抱く印象が滝本さんと俺とでは全然違い、感想を言い合うことが純粋に楽しかった。


そういえば、最後に妻と一緒に映画を観に行ったのはいつだっただろう。

学生の頃はよく行っていたが、“秀人が選ぶ映画ってつまんない”といつも言われていた気がする。

そんな妻が好きな映画はベタなラブストーリーや海外のSF超大作で、俺とは決定的に趣味が合わなかった。



『先生?』


また妻のことを考えてしまっていた俺を、彼女の声が現実に引き戻す。



「あ、ごめん。なに?」

『服、見たいって。』

「あぁ、そうそう。いくつか選んでほしいんだ。」


もう妻が選んだ服は着ない。

私の隣に並ぶのに相応しい格好を…そんな妻の思いは重すぎていつも肩が凝りそうだった。


映画館を出ると急に明るいショッピングエリアで、その眩しさに一瞬目を閉じる。

人がまばらだった映画館とは違い、平日でもそれなりに賑わっている。


少し緊張気味に隣を歩く彼女の手を握ろうかどうか迷い、やめた。



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