白い海を辿って。
『先生って、どういう服が好きなんですか?』
いつの間にか彼女の手はショルダーバッグの紐を握っていて、俺は行き場のない手をどうすることもできずに無駄にポケットの位置を探ってみたりする。
「そうだなー、そんなにこれと言ってこだわりはないんだよね。」
『私、先生は教官の服着てるとこしかイメージできないなぁ。』
そう言って柔らかく笑う、その笑顔に心が癒される。
どうしてこんな感情を知らずに今日まで過ごしてきたのだろう。
「だけどもう、妻が選ぶような服を着るのはやめようと思うんだ。」
『え?』
「いつまでも縛られていたくないから。」
『…そうなんですね。』
そうつぶやいたきり、滝本さんは黙ってしまった。
まずい。
やっぱり妻の話をするのはいけなかったか。
俯いている滝本さんの横顔にサラサラと髪が流れ落ちて、その表情を隠す。
『また今度にしませんか?』
突然立ち止まった彼女が、小さな声で言った。
やはり表情は見えない。