白い海を辿って。

先生は、いつも自分からは立ち去ろうとしない人だった。

先生の印象を思い返してみると、真っ先にそう浮かぶ。


2人で話したことは何度かあって、大抵私が声をかけていた。

それが“別に他の先生でもいいんだけどたまたま近くに先生がいたから”なのか、“先生が良かったから”なのかは分からない。


教習が終わった後で質問をしたとき、私は全て一言二言で会話は終わるだろうと思って話しかけていた。

でもいつも先生の方から会話を広げてくれて、私は立ち去るタイミングを逃してしまうのだ。

だけどそれは決して嫌なことではなく、むしろ先生と話せて嬉しいとさえ思っていた。


そうだ、私は先生と話せて嬉しかった。

だからやっぱり、話を聞いてもらうのは“先生が良かった”のかもしれない。



『ワイパーは使えるようになった?』

「はい、なんとか使えてます。」

『それはよかった。なぜか動かすの苦手だったもんね。』


また立ち去るタイミングを逃してしまった。

でもやっぱり、それが嬉しい。


私がワイパーも操作できずに困っていたなんてつまらないことを、どうして先生は覚えていてくれたのだろう。



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