白い海を辿って。
『元気だった?』
「はい。」
そう聞きたいのは私の方なのに、聞き返すことができない。
先生はこの1ヶ月をどんな風に過ごしてきたのだろう。
『あ、これ。良かったら。』
ふと思い出したように先生が温かいココアを差し出してくれる。
私が来るまでに買っておいてくれたのだろうか。
「ありがとうございます。」
その優しさに触れて、会いたかったという気持ちが溢れ出しそうになる。
だけどまだ出してはいけない。
先生の話を聞くまでは、まだ。
『待たせてごめんね。』
「いえ、大丈夫です。」
『妻に会ってきた。』
暖房も冷房もかけなくても過ごせる秋の車内はとても静かで、速くなる鼓動だけがうるさい。
『離婚届を、出してきた。』
「え?」
それが望んでいた答えだったのかもしれない。
私が待っていた結末だったのかもしれない。
だけどその一言は、とても重く胸にのしかかった。