白い海を辿って。
『独身になりました。』
嬉しいなんて言えないし、当たり前だけど先生だって嬉しそうじゃない。
ひとつ区切りをつけたのかもしれないけれど、先生はなにひとつスッキリとした表情を見せない。
そのことが私の胸を更にざわつかせる。
「そう…でしたか。」
『うん。』
ようやく出たのはそんななんでもない相づちで、自分の言葉を何も返せないことが情けなかった。
『本当は、前に滝本さんと会ってからすぐに離婚してたんだ。久しぶりに妻と会って、俺が先に離婚してほしいって言われた。』
痩せたと思ったのはきっと気のせいなんかじゃない。
この1ヶ月、先生はひとりだった。
『いろいろな手続きをして、家に残ってた妻の荷物を送って、今新しい物件を探してる。』
奥さんと住んでいた家は、1人で住むにはきっと広すぎる。
『本当はもっと落ち着いてから連絡するべきだったのかもしれない。でも、どうしても滝本さんに会いたかった。』
私も、とすぐに言えなかったのはなぜだろう。
私だってこんなにも会いたかったのに。