白い海を辿って。
先生が奥さんとやり直すことになったら、私は良かったですねと言えただろうか。
待ってますと言った中に、少なくとも離婚してほしいと思う気持ちがあったはずだ。
だけど今、その状況になった先生を見て何も言えない自分がいる。
先生が、こんなにも打ちのめされているとは思わなかったから。
『離婚したらもっと堂々と滝本さんと会えると思ってた。何の遠慮もさせずに一緒にいられると思った。でも…』
「先生…?」
手の中で、先生からもらったココアが少しずつぬるくなっていく。
先生の横顔が、少し伸びた髪が、先生の寂しさを浮き彫りにする。
『全部勘違いだった。』
勘違い。
その一言を飲み込むまでに、少し時間がかかった。
堂々と会えることも、遠慮せずに一緒にいられることも、この先ないということ…?
『俺は、たった1人の人生を守ることもできなかった。』
たった1人、先生の奥さん。
会ったことのないその顔を思い浮かべてみても、当たり前だけど何も描くことができない。