毒舌紳士に攻略されて
やだな。そんな顔しないでほしい。
だってそんな顔されちゃったら、何も言えなくなっちゃうよ。

それに勘違いしてしまいそうになる。

私は坂井君のことなんて好きじゃない。
なのに、両親の前で宣言されたり、こうやってストレートな言葉をくれたり、愛しそうに見つめられて頭を撫でられちゃったら、嫌でもドキドキしてしまう。
そして勘違いしてしまいそうになる。


もしかして私は、坂井君のことを好きになりかけているんじゃないかって――……。

今日だけで何度この考えが頭をよぎっただろうか。
でもそのたびに否定する冷静な自分がいるんだ。
そして問いかけてくるの。

“また昔と同じ思いをしたいの?”って――……。

どれくらいの時間、坂井君に頭を撫で続けられただろうか。
私は何も言葉が出てきてくれなかったし、どんな態度を取ったらいいのかも分からずにいた。

「……帰るか」

その言葉と共に離れていく坂井君の大きな手。

本当に私ってばどうかしちゃっている。

手が離れてしまった瞬間、“寂しい”って思ってしまった。
“もっと触れていて欲しかった”って。


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