毒舌紳士に攻略されて
夢でも見ているような錯覚に陥りながらも、どうにか神経を保つ。
そして今にも助手席のドアを開けようとしている坂井君は、さも当たり前かのように淡々と話し出した。

「どうしてってそれはもちろん、昨夜俺が佐藤を自宅まで送り届けたからだろう？」

「えっ！？」

「家を知っている。だから迎えにきた」

「だからって……」

あり得ない自論に開いた口が塞がらない。
それに昨夜だって電車で帰ると言う私を車から降ろしてくれず、無理矢理送り届けられたようなものだし。
せめて自宅付近で下ろしてもらおうとしたのに、それさえも許してもらえなかった。

どうしてこうも頑ななのかと疑問に思ったけれど、今日もまたこうして自宅にまで迎えにきた行動にますます疑問は増すばかり。

「ほら、早く乗れよ。遅刻しちまうだろ？」

私が乗るのが当たり前かのような口調。
だめだ。全然彼の真意が掴めない。

私と坂井君はただの同期。ちょっとばかり同期会で一緒に幹事を務める仲っていうだけだ。
なのにこの対応は何？

グルグルと色々な考えが頭を駆け回る中、立ち尽くす私に痺れを切らしたのか、「チッ」と舌打ちしたかと思えば、強引に私の鞄を取り上げた。
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