毒舌紳士に攻略されて
なのに坂井君はジッと私の顔を見つめてくる。

「乗るよな？」

これはもう脅しでしかない言葉に、今はとにかく離れてほしくて何度も何度も頷くと、やっと腕を離してくれた。

「どうぞ」

「あっ、ありがとう」

ドキドキし過ぎてふらつく足。どうにか助手席に乗り込むとすぐに坂井君によってドアが閉められた。
相変わらず紳士的な彼――。
どうして迎えに来たのだろうか？

「シートベルトしめて」

「はっ、はい！」

運転席に乗り込んだ坂井君はこちらを見ることなく言うと、私がシートベルトをしめたのを確認し、車を発進させた。
今もなお柑橘系の爽やかな香りが鼻を掠める。その香りのせいか先ほどから続くドキドキ感はなかなか収まってくれそうにない。

どれくらいの距離を走っただろうか。急に坂井君は迎えにきた理由を話し出した。

「悪かったな、急に来たりして」

「え？」

まさかここで謝れるとは夢にも思わず、運転する姿を見つめてしまった。
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