毒舌紳士に攻略されて
冗談でしょ?

だけど坂井君は表情を変えない。

「本当だよ。全部聞いた」

そう言うと坂井君の手はゆっくりと私の顔から離れていく。

頭の中が真っ白になる。
知られたくなかった。坂井君にだけは高校時代のことを――……。
なのに知られてしまったなんて。

茫然としてしまう中、坂井君は私の手を握りしめ距離を縮めると、耳元でそっと囁いた。

「佐藤……今でもアイツのこと、好きなのか?」

「え?……そっ、それはないからっ」

思いもよらぬ言葉に一瞬フリーズしてしまうも、すぐさま否定する。
だけど坂井君は信じられないのか、「本当に?」と再度聞いてきた。

「本当だよ!……第一あんなことされて、今でも好きとかあり得ないよ」

そうだよ。傷つけられたのに今でも好きとかあり得ない。
ずっと心に残る深い傷をつけられたのに、好きなわけないじゃない。

そう言っているというのに、坂井君はなぜか苦しそうに表情を歪めた。
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