毒舌紳士に攻略されて
「それに怖かったの。……またみんなの前でからかわれて、笑われたりしたらどうしようって」

あの日の出来事は今でもたまに夢に見ることがある。
石川君と友達数名に囲まれて、笑い者にされた場面を。
数年経った今でも、あの日のことをこうやって思い出すと胸が苦しい。

坂井君に手を握られたままの状態で、どこに視線を向けていいのか分からず泳がせていると、坂井君は呆れたように大きな溜息を漏らした。

「なんだそれ。それって結局逃げているだけじゃねぇの？」

「――え？」

吐き捨てるように言うと、手を離された。

「確かにあの男が佐藤にしたことは許せねぇよ。同じ男として最低だと思う。佐藤だってそう思ってるんだろう？だったら文句の一つや二つ、言えよ。どうせ高校時代にも言えていないんだろ？逃げてばっかいるんじゃねぇよ」

いつになく声を荒げる坂井君。

そんなの言われなくたって私が一番分かっている。
教室で話を聞いてしまった時、文句を言えばよかったんだ。
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