毒舌紳士に攻略されて
だけど当時の私は本気だった。
本当に石川君が好きで、毎週会えるのが楽しみで。今でも鮮明に覚えているの。
文句なんて言えなかったよ。
ただショックで悲しくて、どうしようもなかった。

「そもそも佐藤っていつもそうだよな。自分の気持ち押し殺して我慢して。そうしてこうやって一人で泣いてちゃ世話ねぇよ」

「……っ!」

「二十三にもなって恥ずかしくねぇの?自分の気持ち、ちゃんと言えないなんて」

「坂井君には分からないよっ!」

カッと頭に血が上ってしまい、気付いたら坂井君に負けないくらい大きな声で叫んでしまっていた。

「じゃあ俺が分かるように言ってみろよ」

だけど坂井君は動じることなく、淡々と煽るように言ってきたものだから、つい本音を漏らしてしまった。

「坂井君には分からないよ!……私は本気だったの。本当に石川君のことが好きだった。それなのにからかわれていたって知った時の気持ち、坂井君に分かる?悲しくて苦しくて、どうしようもなかった」

夢でも見ているような気持だった。
すぐに信じることなんて出来なかった。


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