毒舌紳士に攻略されて
「それなのに文句なんて言えないよ。今だってそう。ずっとトラウマなんだもん。だからこうやって前髪でおでこを隠しているの。思い出すだけで辛いの。もう二度と会いたくなんてなかったっ……!」

頭の中は色々な感情で溢れていてぐちゃぐちゃで、思ったことを次々と口にしていく。

「もう会いたくなかったよ。顔も見たくない。……でも好きって気持ちは本物だった」

好きだった。それだけは確かな気持ちだった。
また誰かを好きになっても、あの時のように裏切られるのが怖くて新しい恋愛をする勇気が出なかった。

高ぶった感情を象徴するように、いつの間にか涙が溢れていて、頬を伝っていくのが分かった。

「……っごめんっ」

頬を伝う冷たい感触に我に返る。

やだ、私ってばなにやっているんだろう。
坂井君の前で気持ちをぶちまけた挙句、泣いちゃうとかあり得ない。

慌てて涙を拭うものの、その途中その手は坂井君に掴まれてしまった。
そしてかわりに坂井君が溢れる涙をそっと拭ってくれた。

「なんだよ、言えるじゃん」

子供を誉めるような優しい声に顔を上げれば、坂井君は目を細めて微笑んでいた。
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