毒舌紳士に攻略されて
そう言うと石川君はなぜか自分の額を指差した。

「あの時言ったこと、嘘だから。……佐藤のおでこ、ずっと可愛いと思っていた」

「……嘘」

「本当だよ」

すかさず否定すると、照れたように話し出した。

「図書室の窓から入ってくる風で前髪が上がった時とか、夏休み中に会った時、前髪を上げたりしてきただろ?そのたびにずっと思ってた。可愛いなって」

信じられない話に、言葉を失うばかりだった。
だってあの時の言葉でずっとトラウマになっていたんだよ?なのに今更こんなカミングアウトなんて、あり得る?
今までずっとおでこのことで悩んでいた自分がバカらしく思えてきてしまった。

そう思うとさっきまでの緊張感は解され、笑みと共に大きな息が漏れてしまう。
周囲は相変わらず騒がしい。よくこんな中でしんみりとした話をできていたものだ。

「あれ?石川君ここ……」

気持ちに余裕ができると自然と先ほどまでは見えてなかったものが、見えてくる。
周囲の騒がしさもそうだけど、次に私が気付いたのは石川君の左頬だった。
よく見ると赤く腫れているし、なにより唇は切れていて血が固まっている。
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