毒舌紳士に攻略されて
「佐藤は忘れているんだろうな」

俺は忘れることなんて出来なかった。
ずっと好きで、会いたくて堪らなかった。

ハンカチをギュッと握りしめ、あの日の出会いを思い出す――……。


*  *  *

「落ちた……」

十五歳の春、見事に桜は散ってしまった――。

受験番号が書かれた紙を握りしめたまま、茫然と立ち尽くしてしまう。
受験した高校は県内でも有数の進学校ではあったが、自他共に絶対に受かると信じて疑わなかった。……なのに、落ちてしまったのだ。

周りの受験生達は喜んでいる人達ばかりだっつーのに……!

おぼつかない足取りのまま、掲示板の前から離れていく。

信じられねぇ。この俺が落ちるとかあり得ねぇだろ?

昔から勉強もスポーツも器用にこなしてきた。
不得意なものなどなかったし、勝負事では必ず結果に結びつけてきたし、挫折など味わったことなかった。
ここの受験の日だって余裕で受かると思っていたから、さほど緊張もしなかったし手応えもあった。
だから絶対合格していると思っていたのに――……。
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