毒舌紳士に攻略されて
「彼氏……か」

きっと新しい彼氏の存在ができたら、彼との思い出なんて綺麗さっぱり忘れてしまうのかもしれない。
まぁ……今はとにかく仕事を覚えなくてはいけない時期だから、恋愛している暇なんてないけど。

そんなことを思いながらひとり寂しくご飯を食べていると、急に空いていた隣の席の椅子を引く音が聞こえてきた。

「ここ空いてる?」

「あ……はい、どうぞ――……」

今の時間は常に満席。席をひとつ空けて座るほど余裕はないのはいつものこと。
でも今日ばかりは断ればよかったと、後悔してやまない。

「どっ、どうして坂井君がここに……!?」

そう。隣に腰掛けてきたのはまさかの坂井君だったのだから。

本当に断ればよかった!っていうか席なら他にも空いているよね!?どうしてわざわざここに座るかな。
さっきから女子社員の視線が身体に突き刺さって痛いし。
こういう時に限って琴美はいまだに彼氏と電話中で、戻って来ない。
琴美がいたらきっとこんなにも、痛い視線を浴びずに済んだのに!
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