毒舌紳士に攻略されて
早く琴美に戻ってきてほしくて、何度も入口を見てしまう。
こうなったら食事どころではない。
もう満腹だってことにして、さっさとこの場から去った方が賢明?

「ちゃんと最後まで食えよな?……それにまさか俺が来たからって理由で、食べ物を粗末にするつもりじゃねぇだろうな?」

「そっ、そんなわけないじゃない!」

割り箸を割りながら、鋭い目つきで睨まれては簡単に身動きが取れなくなってしまう。

それにしても坂井君ってばエスパーか超能力者なのだろうか?
どうして私が考えていることが分かったの?

食べ物を粗末にするな!と言われた手前、ただ黙々と箸を進めるものの、どうしても気になってしまうのは隣に座る坂井君の存在。
イケメンはなにもやっていてもイケメンなようで、食べる姿も美しい。
それに箸の持ち方もちゃんとしているし、食べる姿勢だっていい。
これは女子社員がさっきから、チラチラと視線を送るのも頷ける。

「……珍しいね、坂井君が社食なんて」

ずっと無言のままなのもなと思い、当たり障りのない話を持ち掛けてみた。

「ここの社員なのに、利用しちゃいけねぇの?」

「えっ!?いや、そんなことは一言も言っていないけど……」

「俺にはそう聞こえたけど?」
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