毒舌紳士に攻略されて
「だって聞いたんだろう?……全部」

坂井君の全部とは、全部なんだよ、ね。
そう解釈し頷くと、坂井君は先ほどよりも深い溜息を漏らした。

「……引いただろ?たった一時間くらいの出会いを運命と信じて、好きでいたとか」

酷く自虐的な言葉に驚く。

「えっどうして?」

引くとかあり得ないよ。

「いや、普通は引くだろ。現に親父にした時、「怖っ」って言われたし、すっげ引かれたし」

おっ、お父さん……!
息子に向かってなんてことを言ったのよ。
そんなこと思っていないのに――……。

「私は引いたりしないよ?それどころか、お父さんから話を聞いた時すっごく嬉しかった」

「――え?」

ゆっくりと顔を上げると、まじまじと見つめてくるものだから、視線は泳いでしまうものの言葉を続ける。

「だってそんなの嬉しいに決まっているじゃない。……好きな人が自分のことをずっと前から想ってくれていたとか」

そうだよ。嬉しかった。嬉しい以外の感情なんてないよ。

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