毒舌紳士に攻略されて
「だからそんな落ち込まないで」

「佐藤……」

私の気持ち、伝わっただろうか。

少しの間、坂井君と向き合ったまま見つめ合う。
どれくらいの時間、見つめ合っていただろうか。急に握られた手を引かれ、身体のバランスを崩すとそのまま坂井君に強く抱きしめられてしまった。

「えっ!?坂井君!?」

ギュッ、ギュッと強く強く身体を抱きしめられていくたびに、胸が締め付けられていく。
身体中で坂井君のぬくもりも香りも全て感じてしまうから……。

「……あのさ、もう限界」

「えっ」

あれほどきつく抱きしめられていたというのに、急に身体を離すと坂井君の顔が近づいてくる。

「わっ!ちょっと!!」

咄嗟に坂井君の口を両手で塞いでしまえば、明らかに不機嫌そうに顔を顰めた。

「おい佐藤。なんだよ、この手は」

「なっなんだよって……!だって坂井君が急に近づいてくるからっ」

だから咄嗟に口を押えてしまったのだ。
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