毒舌紳士に攻略されて
もちろん理解は出来ている。
坂井君は私にキスしようとしたことくらい。だからこそ口を押えたのだ。
だっていきなりすぎる!

「は?近付けるのは当たり前だろ?キスしてぇんだから」

「なっ……!」

顔はどんどん火照っていくというのに、そんな私を気遣う様子もなく坂井君はジリジリと距離を縮めてくる。

「こっちは散々我慢してきたんだ。もうその我慢も限界だっつーの!」

「いや、急にそう言われても、こっちだって心の準備というものがあるし!」

ジリジリとキスを迫ってくる坂井君と、そんな坂井君の口元を必死に押せて抵抗する私。
傍から見たら間違いなく笑える絵面だ。

「心の準備?そんなものいらねぇだろ?」

「いるよっ!」

何を言い出すかと思えば……!
心の準備は必要に決まっているじゃない。だって好きな人とキスするんだから!

なのに坂井君はとんでもないことを言い出した。

「準備がいるのはセックスの時だけだろ?」

「っ……!」

恥ずかしい単語につい坂井君の口を覆っていた手を離してしまった瞬間、急にドアの向こうから大きな笑い声が聞こえてきた。
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