毒舌紳士に攻略されて
すぐにドアは閉められ、坂井君が運転席に乗り込むと鼻を掠めるのは、どうやらご愛用の柑橘系の香り。

「三十分くらいで着くから」

一言だけそう言うと、坂井君は車を走らせていく。

三十分、か。
ここから三十分で行けるところと行ったらどこかな?
一応都心部へは近い立地にある我が家。だからある程度のデートスポットへだったら、どこへでも行ける。
気になるし、聞きたい。でも――……。

チラッとバレないよう運転する坂井君を盗み見ると、誰もが惚れ惚れしてしまうくらい凛々しいお顔で運転なさっている。
でもきっとここで私が「どこに向かっているの?」なんて聞いた途端、彼の表情は一変してしまいそうだ。

そうなったら怖いし、今日はスタートから怒らせてしまったし、ここはおとなしくしておこう。……それに坂井君とこうやって会社以外で休日に会うのは、最初で最後かもしれないのだから。

自分に言い聞かせ、ステレオから流れてくる洋楽を聞きながら心地よい車の振動に揺られていった。
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