毒舌紳士に攻略されて
そしてチラッと私を見るものの、前を見据えたまま案の定、とんでもないことを言い出した。

「俺の実家」

「実家!?」

狭い車内だということは重々分かってはいたものの、これが大きな声を出さないわけにはいかない。

「うっせぇなぁ」

舌打ちしながら耳を塞ぐ姿に、今はもう怒りしか沸き起こらない。

「大きな声も出したくなるよ!どうしていきなり実家なの!?」

怒りをぶつけるように詰め寄ると、坂井君は心底面倒そうに顔をしかめた。

「一昨日言ったじゃん。嫁になってくんないって。だから実家に連れていく」

「なっ!」

言葉が続かない。
なに?その坂井君にしか当てはまらない方程式は!
『嫁になれ=実家』
全てが私の意思を完全に無視したものじゃない。

どこの世界に彼氏でもない人の実家に行く人がいるのよ!
しかも坂井君の実家よ?行くわけないじゃない!

「失礼します」

ここは逃げるが勝ちだ。
咄嗟にそう判断し、シートベルトを外して逃げ出そうとしたものの、坂井君が簡単に逃してくれるはずなどなかった。
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