毒舌紳士に攻略されて
「待てよ」

その言葉と同時に掴まれてしまった右腕。
逞しい腕から視線を上げていけば、いつになく余裕のない表情を見せる坂井君に、逃げたいという気持ちは一瞬にして消えていく。

だってこんなに余裕ない顔なんて、初めて見たから。

視線は釘付け。
それが面白くないのか、坂井君の目は魚のように泳いで視線を定まらせない。

それがかえってまた、彼に余裕がないことを意味しているように取れてしまい、腕を掴まれたまま見つめてしまった。

だってどうして坂井君がこんな顔をするのか、意味が分からないから。

「こうなるから言わなかったんだよっ」

さも私が悪いと言わんばかりの言い様に、ここは黙ってなどいられない。

「そんなの当たり前じゃない。坂井君、おかしいよ。付き合ってもいない私のことを実家に連れていくとか」

そうだよ。
そこからしておかしい。

「それに坂井君なら他にいっぱいいるでしょ?実家に連れていくに相応しい人が!」

「は?」

怒りを感じる言葉に一瞬怯んでしまったものの、言ってしまったものは仕方ない。それに私は間違ったことを言っているつもりはないから。
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