毒舌紳士に攻略されて
負けないと伝えるように、坂井君をジッと見つめ返す。

「私じゃなくてもいいじゃない。……そもそもどうして私なの?だって私達、ただの同期仲間でまともに話したことなんて、数えるほどしかないよね?」

入社してまだ一年も経っていないし、私はずっと坂井君を避けてきた。
まともに話すようになったのは、本当につい最近の話だ。

「坂井君は私のことなんて、何も知らないじゃない」

「……っ!」

素直な気持ちだった。
坂井君は私のことなんて知らない。なのに、どうして簡単に「嫁になれ」とか言えるの?
それが信じられないの。

信じられないけれど、聞きたい。坂井君の気持ちをちゃんと聞きたかった。

矛盾する気持ちに戸惑いつつも、坂井君の出方を待つ。
すると坂井君はなぜか傷ついたように表情を歪ませた。

「分かっていないのは、佐藤の方だろ?」

「……え?」

私の方?……どういう意味?

坂井君が言いたいことが分からない。それにどうしてそんな顔をするの?
私はなにもしていないのに。……なのにどうしてそんなに悲しそうな顔をするの?
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