毒舌紳士に攻略されて
恋愛している相手に感じるトキメキとはまた違うドキドキ感を感じつつも、坂井君の言いたいことが分からなかった。

「……意味分からないよ」

これ以上傷ついたように表情を歪ませる坂井君を見続けることが出来ず、逃げるように視線を落としてしまった。
するとそれを許さないと言わんばかりに、掴まれていた右腕を強く握り返される。

驚き顔を上げれば、一気に坂井君は顔を近付け距離を縮めてきた。
そして鼻と鼻が触れてしまいそうな距離を保ったまま、静かに言い放った。

「分からないなら、知る努力しろよ」

いつもよりワントーン低い声と、あまりに近い距離に心臓は激しく反応し出す。
呼吸の仕方も忘れてしまうほど、坂井君の深い漆黒の瞳に吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。

「逃げねぇで、ちゃんと俺を見ろよ。……俺は佐藤のことずっと前から見ていたから。だから分かる。佐藤がどんな女なのか」

「……坂井君」

瞬きをするのも忘れる。

ドキドキし過ぎて心臓が壊れてしまうかもしれない。

そんな私に追い打ちをかけるように、坂井君は腕を掴む手の力を強めた。

「だからちゃんと俺のことも見てくれよ」


< 77 / 387 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop