毒舌紳士に攻略されて
「なんだよ、離せよ!」

「無理無理!」

「こっちも無理だから!」

玄関先で攻防を繰り広げる私達は、きっと通り過ぎる人の目には“不審”にしか映らないだろう。
でも例え不審に思われたって、この腕を離すわけにはいかない。

流されるようにここまで来てしまったけれど、よくよく考えてみれば人様の家に来たというのに手土産もない。
それに今日はすごくカジュアルな服装だし。
いや、この際服装はどうでもいいとして、さすがに手ぶらはマズイよね。

「坂井君、ちょっと買い物行かせてもらってもいい?」

「はぁ?バカにしてんのか?」

一段と大きな声でバカ呼ばわりされたって、これだけは譲れない。
社会人としての常識くらいは身につけているつもりだ。

「バカになんてしていないよ!……だってマズイでしょ?」

「なにがだよ」

紳士的で会社では仕事がデキるというのに、こういったことには無頓着というか知識が備わっていないのだろうか?
【買い物行きたい】というワードで察してくれてもいいと思うんだけど。
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