毒舌紳士に攻略されて
分かってもらえないもどかしさに、つい坂井君の腕を握る力が強まってしまう。

「だからさ、その……マズイじゃない。こうやってお邪魔するのに手ぶらとか」

「は?」

いやいや、こっちが「は?」と言いたいんですけど!
当たり前な話をしているというのに、どうして分かってくれないの?

あまりに鈍感な坂井君に沸々と怒りが込み上げていく。

「だって常識的に考えておかしいでしょ?第一実家に行くなら、もっと服装だって気遣ったし、前もって美味しいケーキのひとつやふたつ買っておいたから!」

怒りに身を任せるがまま言うと、さっきまであれほど不機嫌な声が返ってきたというのに、坂井君は急に黙ってしまった。
その瞬間、ハッと我に返る。

ヤバイ。……つい思ったこと言ってしまったけれど、何も言ってこないということはきっと怒らせちゃったよね?

怒りはあっという間に消え去り、不安の波が押し寄せてくる。

「あの、坂井君……」

すごく怒られる前にさっさと謝ってしまおうとした時、意外な言葉が返ってきた。


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