毒舌紳士に攻略されて
「なんでそんな可愛いこと言うわけ?」

「……は?」

次の瞬間、反対の手で身体を引き寄せられると、あっという間に坂井君に抱きしめられてしまった。

「えっ!ちょっと!?」

一瞬にして身体中を包む坂井君のぬくもりと、柑橘系の爽やかな香り。
突然のことにパニック状態だというのに、坂井君はさらに抱きしめる腕の力を強めてきた。

「別にうちの親、そういうことに関してうるさくねぇし、第一今日の佐藤は普通に可愛いから」

なっ……!

抱きしめながら「可愛い」なんて言葉をサラッと言ってのけるとは……!

こっちは顔から火が出るほど恥ずかしい状況だというのに!!
……なのに、どうしてだろう。
恥ずかしくて堪らないのに、嫌ではない。
坂井君のぬくもりも香りにも、全く嫌悪感を抱かない。
苦手な人のはずなのに、どうしてだろう……。

でもいくら嫌ではないと思いつつも、抱きしめ返したいほど嬉しいわけではない。

「あの、坂井君……そろそろ離してもらえるかな?」

ここは住宅街。幸い今は通りかかる人はいないものの、いつかは誰かに見られてしまいそうで怖い。
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